成長基盤固め、果実手に
政府は2016年3月に中長期の観光政策を示す「明日の日本を支える観光ビジョン」を策定した。訪日外国人旅行では、現状(15年)の旅行者数1974万人・消費額3兆5千億円に対し、20年に4千万人・8兆円、30年に6千万人・15兆円という意欲的な目標を設定。「観光先進国」を目指すと宣言した。
観光庁の宿泊旅行統計をベースに将来を考えると、延べ宿泊者数全体に占める外国人の割合は、15年が13・0%で約8人に1人だったが、日本人の延べ宿泊者数に変化がないとすると、4千万人の時には23・3%で約4人に1人、6千万人の時には31・3%で約3人に1人となる。観光産業、地域をとりまく環境は大きく変わることになる。
しかし、その旅行需要や経済効果が、全国に、あらゆる産業に行き渡るとは限らない。15年の外国人延べ宿泊者数の運輸局エリア別の構成比は、北海道8・6%▽東北0・9%▽関東38・4%▽北陸信越2・9%▽中部8・3%▽近畿24・3%▽中国1・8%▽四国0・7%▽九州8・4%▽沖縄5・6%。また、その宿泊先の施設タイプ別構成比は、旅館11・1%▽リゾートホテル13・4%▽ビジネスホテル34・8%▽シティホテル37・4%▽簡易宿所2・7%。かつて目標と位置づけてきた2千万人の時代を迎えたわけだが、地域、産業によって得たものの差は大きい。
政府は、これらの課題を踏まえて広域観光周遊ルートの形成、旅館などのインバウンド対応支援といった施策を推進している。ただ“護送船団方式”ですべての地域、事業者を観光先進国へと成長させてくれるわけではない。訪日4千万人、6千万人の時に自らの地域、企業がどのような位置を占めるのか、青写真を描いて取り組まないと、その果実を逃すことになる。
インバウンドにはさまざまな課題があり、短期的にはリスクも伴うだろうが、新たな市場として魅力は大きい。DMO構築などの地域づくり、生産性向上などの経営改革を推進して成長への基盤を固め、観光先進国の担い手の一員として恩恵を享受できるようにしたい。
【向野悟】